活動の背景
千葉県房総半島の中央部に位置する、君津市上総亀山。ここは東京湾最大級の干潟である盤洲(ばんず)干潟に注ぐ小櫃(おびつ)川の源流部にあたり、水源地としても重要な山々を擁する地域です。夏の深い緑、秋の紅葉が華やかな一見豊かに見えるこの地域ですが、森の中は年々荒廃が進み、植物や昆虫、小動物など生態系の貧疎化が深刻な問題となっています。
その大きな原因は、過剰に繁殖した鹿による食害です。増えすぎた鹿たちが山の植物を食い荒しているため、そこに生息していた昆虫や小動物たちも姿を消し始めています。鹿は、餌となる草がなくなる冬場は木々の皮を剥いで食べてしまうため、多くの木が衰弱し枯死する場合も少なくありません。また、春先にせっかく生えてきた若木も食べてしまうので、森には次世代の植物が育たず、鹿の食べないアブラギリなどの植物だけが繁茂しているという、非常に生態系バランスの悪い状態になっています。
また、小櫃川中流域の山々は、繁茂した竹が杉や雑木に覆いかぶさり、倒れた竹によって歩くこともできないほど荒れ果てた姿を晒しています。かつて里山は薪炭材の供給源、畑の栄養源として利用され、萌芽更新を繰り返しながら里の人々と共生していました。エネルギー革命によって木々は利用されなくなり、代わって注目されたのが農業資材や庭木の支柱、細工物の材料として需要のあった真竹や孟宗竹です。竹を植え増やしていったのですが、やがて、それらは樹脂製品に取って代わられ、海外から安価な竹製品が輸入されるに至り竹の需要は激減しました。そして、見放された山々では繁殖力の強い竹林が増大、他の樹林を淘汰しています。
これからの森づくりと目標
ちば四季彩の森
EFFでは、2007年から降雪で倒されてしまった杉林の跡地に植林を始めました。小櫃川の源流域として、豊かな水を海へと運べるように、広葉樹を多種選択して植えようと名前を「ちば四季彩の森」としました。植林にあたり最も考慮したのが鹿の食害対策です。防鹿(ぼうろく)柵で囲う方法も検討しましたが、鹿が超えられない柵にするには、長い年月風雪に耐えられる強度が必要であり、技術的に難しいと判断し、手間がかかっても、苗木の1本1本を網で囲う方法(サプリガード)を選択しました。サプリガードは、鹿はもちろんですが雑草から守ることにもなり、草刈り時には目安として刈払い機で苗木を伐ってしまう失敗も防いでくれます。3年にわたり545本を植え、全部で13種類の木の混交林となりました。単一樹種の林に比べて性質の違った樹種が混在する混交林は、病虫害や気象災害にも抵抗力があり、生物多様性にも富んでいます。今後はサプリガードのメンテナンスや草刈りを行い、苗木が大きく育つまで見守っていきます。
豊果(ゆたか)の森
「豊果の森」の植林場所は四季彩の森のから2kmほど下方、山道沿いに開けた平地で、傾斜がなく作業がしやすい場所ですが、ここは以前、山道開設用の工事土砂を捨てた場所であるため、土壌はやせて少し掘るだけで粘土質の土が固まっていてとても硬い状態です。かろうじて穴を掘ることができても、掘りだした土はゴロゴロとした塊となっているので、苗木を植えるためには細かく砕いてから穴に戻さなければなりません。
2008年に、蓮華草を撒いて窒素固定を試みたところ、花は一面可憐に咲きましたが、同時に鹿の糞が各所に散見、蓮華草を食べる親子鹿と遭遇しました。そのため、サプリガードはもちろんですが肥料も施すことにしました。コンディションの良くない土を整えながら苗木を植えてサプリガードを設置するまでの作業は、肥沃な土壌より 手間がかかり、 4 人一組で 8 本を植える作業に 3 時間あまりを費やし、参加者の方々にも若干疲労の色がにじんでいました。ここには、鳥がやってくるように実のなる木を3年かけて200本植え、はやく土が肥えるように「豊果の森」と名づけました。
真里谷(まりやつ)の森
四季彩の森から約20km下がった小櫃川中流域の木更津市真里谷の里山、一面、竹が茂り他の樹木の姿が見えません。竹を伐採して、竹が繁茂する前の姿、杉とケヤキなどの広葉樹と竹が適度に交わった森づくりを目指し、2009 年の秋から竹(真竹)を伐りだし始めました。搬出は人力だけでは追いつかず重機の力を借りました。切り開いたところは翌春(2010年)から一斉に真竹が芽生え始め、5月以降3度の刈払いをしました。真竹は6月が旬、アク抜きしなくてもそのまま煮て食べられます。また、地拵えは済んだものの、地下茎が縦横にはびこり、このような場所に植林ができるか不安でしたが、10 月に試験的に植えた苗木が無事に育っていることを確認して、翌年2011年 3 月の植林参加を呼び掛けました。
ヤマモモ、ヤマグワ、ムクノキ、エノキの 4 種の広葉樹を用意、始めに、放置して散乱していた竹の残骸の片付けを行い、その後一人 4 本をノルマとして約 160 本の苗木を植林しました。真里谷の山にはまだ鹿の姿は見えないのでサプリガードは設置せず、雑草防止シートのみを敷きました。土壌の状態は良く土はふかふかですが、掘ってみると場所によっては太い地下茎が横断していて穴が掘れない所も多くあります。参加者の方々に竹伐り用ノコギリを配布して、根を伐りながらの作業をお願いしました。樹種は小鳥が好む(人間も食べられる)木の実が生るもので、蝶や昆虫の生息の場にもなる木を選択しました。その後、竹の新芽を刈りながら様子を見て、1年後に、ヤマザクラ、コナラ、クヌギ合わせて150本を追加植林しました。竹一色で生物層の乏しかったこの場所に、たくさんの種類の植物や鳥や虫たちが還ってくることを願って、植えた苗木をケアしながら長い時間をかけて森へと育てていきたいと思っています。
活動内容(手法:植樹、竹林整備、草刈)
<植樹>
「ちば四季彩の森」では2008年から3年にわたり0.5haに545本を植樹しました。初年度がカツラ、クヌギ、クリ、オニグルミ、ケヤキ、トチ、ミズナラ、イロハモミジの 8 種類360本、2年目がケヤキ、コナラ、唐カエデ、ネムノキ、コブシ、白モクレンの6種類105本、そして2010年3月には、クリ、オニグルミ、ケヤキ80本を植樹しました。「豊果の森」では2009年にウメ、スモモ、モモ、ユズ、ミカン、カキ、リンゴ、ヤマモモ、ユリを合わせて70本、2011年に樹種をウメ、カキ、モモの3種に絞り130本、合わせて200本を0.4haの土地に植えました。「真里谷の森」では2011年にヤマモモ、ヤマグワ、ムクノキ、エノキの 4 種160本、2012年には前年の隣接地にヤマザクラ、コナラ、クヌギの3種150本を植えました。そして、2013年3月は真里谷の森で植林を予定しています。
<竹林整備、草刈>
6月頃に真竹の新芽を刈り取り、竹林と化している場所では竹を伐って運び出し作業を行ないます。竹伐りを行い3年経過したところでは、ようやく新芽の伸び方も鈍化してきました。また、7月から9月にかけては、四季彩の森と真里谷の森で刈払い機と刈払い鎌を用いて草刈を行ないます。さらに、2月は柴や竹を刈る地拵え作業をして3月の植林に備えています。
2016年度活動報告
今年度は真里谷・かずさの森、2拠点で活動を実施しました。かずさの森の植栽は大変生育良好で、大きいものでは幹の太さ40㎝、樹高6mほどにまで生長している。ここでは主にアブラギリの伐採作業に専念し作業を行ったが、大きく生長した苗木については、サプリガードの撤去も含めて今後慎重に検討していきたい。
2015年度活動報告
2014年度活動報告
真里谷・かずさの森、2拠点で積極的に活動を実施しました。「豊果(ゆたか)の森」では今年も、スモモなどがたわわに実っており順調な生育を確認できました。真里谷では、これまでの活動で竹の生育も落ち着いてきているため、以前強風で倒れてしまった苗木のガードと補植を重点的に行いました。
2013年度活動報告
真里谷・かずさの森、2拠点で積極的に活動を実施しました。草刈の時には過去植樹した「豊果(ゆたか)の森」を視察。木々の生育はとても良好でスモモなどがたわわに実っていました。また、植樹活動では、ボランティアの方に自主農園で育てた苗木を提供いただき、ミズナラ、トチ、コナラ、クワ合計68本を植樹しました。
2012年度活動報告
今年は真里谷のフィールドを重点的に行い、夏の草刈には、23名、秋の植樹には37名の企業社員・ボランティアの方々にご協力いただきました。これまで鹿が出ていなかった当地でもフンが発見されたため、サプリガードを使用することに。千葉では初めての活用でしたが、参加者一抜群のチームワークであっという間にクヌギやケヤキなど60本を植え終わりました。